お知らせ

人を大切にする経営 ~人が輝く組織をつくる100人の社長の物語:吉田睦さん~

2026年9月9日

受け継ぐ覚悟、変えていく勇気

~大和農園ホールディングス・大和農園 吉田睦 社長~

奈良県天理市に本社を置く株式会社大和農園ホールディングス・株式会社大和農園。

1920年の創業以来、100年以上にわたって、日本の農業と食を「種」から支えてきた会社です。

事業の柱は、オリジナル野菜品種の研究開発と種子の生産、国内外への卸売販売、そして花や野菜の種子、球根、苗、園芸用品などを取り扱う通信販売です。

私たちが普段、何気なく口にしている野菜も、始まりは一粒の種です。

その小さな種には、農家の方々の暮らしだけでなく、食べる人の健康や喜び、そして未来の食文化へとつながる大きな可能性が詰まっています。

農家の方々にとって収量が多いこと、異常気象の中でも安定して作物が収穫できること、また、それぞれの地域が抱える課題を解決すること。

そうしたニーズに応える新しい品種をつくることも、種苗会社の大切な仕事です。

そういえば、私が子どもの頃は「畑でできたから」と近所の方がスイカを丸ごと持ってきてくださり、
夏になると家の廊下にスイカがゴロゴロと転がっていました。
ところが今では、私自身も4分の1にカットされたものを買うことがほとんどです。

吉田社長はこう話されました。

「昔のスイカは真ん中が甘くて、外側にいくほど甘さが少なかったんです。
今は小玉スイカやカットされたスイカの需要が多いので、どこを食べてもおいしいスイカが求められます」

これも、時代や社会状況、家族構成の変化によって、求められるものが変わってきているということなのでしょう。

🔳家業を継ぐつもりはなかった

吉田社長は、幼い頃から大和農園の後継者になると決めていたわけではありません。

奈良を元気にする仕事に関心を持ち、大学では観光学を専攻。
卒業後は大学院で会計を学びながら、東京のベンチャー企業で働いていました。

転機となったのは24歳のときです。
大和農園の2代目である祖父が亡くなり、3代目社長である父親から「奈良に帰ってきてくれないか」と声をかけられます。

こうして大和農園に入社することになった吉田社長。
しかし、そこには想像していた以上の苦労が待っていました。

🔳見えてきた会社の厳しい現実

入社後、吉田社長が担当したのは経理でした。

最初の2年間は、仕事を覚え、周囲についていくだけで精いっぱいだったといいます。
しかし、仕事に慣れ、会社の数字が少しずつ分かるようになるにつれ、決して楽観できる状況ではないことが見えてきました。

「このままではいけない」

そう感じた吉田社長は、各部署へ足を運び、社員の話を聞き始めます。

すると、長年続けてきた仕事をこれまでと同じやり方で繰り返していることや、
部署を越えた話し合いが十分に行われていないことなど、組織としての課題が次々と見えてきました。

100年近い歴史は、会社の大きな財産です。

一方で、長く続いてきたからこそ、変えることが難しくなっている慣習もありました。

古くから会社を支えてきた社員にとって、若い女性から、それまでのやり方を変えようと
言われることは、簡単に受け入れられることではなかったでしょう。

社員と意見がぶつかり、言い合いになることも日常茶飯事だったといいます。

「幹部も含め、9割が退職した」

そう話された吉田社長。

それでも、変えることを諦めませんでした。

歴史を守るということは、これまでと同じことを続けることではない。

時代に合った会社へと変わらなければ、初代から受け継いできた大和農園を、
いつかは畳むか、誰かに譲ることになってしまう。

「手放すのは簡単だけれど、自分がやれることをやろう」

その一念で、組織の仕組みや働き方の改革に取り組みました。

🔳29歳で、100年企業の社長に

大和農園に入社して5年目。

吉田社長は29歳で代表取締役に就任されました。

社長になることへの不安は、もちろんあったといいます。

それでも社長を引き受けようと思った背景には、

「スタッフは種苗事業を心から愛している。この子たちを守りたい」
「ここまで3代で守ってきたものを守りたい」
「自分ができることを、やりきってみよう」
そんな思いがありました。

社長就任後、まず理念を定め、人事評価制度をつくり、一人ひとりが目標達成に向けて意識を持って働ける仕組みを整えていきました。

さらに、会社の数字を幹部に開示し、「どうしますか?」と問い続けたそうです。
自分一人が答えを出すのではなく、一緒に会社について考えてもらう。
自分事として、考えてもらう。

経営のことも会社のことも、まだ十分に分からなかった若い経営者についてきてくれたスタッフ。
その人たちのためにも、

「この会社にいて良かった」

そう思える会社にしたいと語られました。

🔳種屋には、まだまだ可能性がある

「では、これから大和農園をどのような会社にしていきたいですか?」
そう尋ねると、吉田社長は、

「種屋には、まだまだ多くの可能性がある」

と答えてくださいました。

創業100周年を越えた大和農園が掲げるブランドステートメントは、

「巡る恵みを、百年先へ。」

天と地、そして人から受け取った恵みに感謝し、その恩を次の世代へ送っていく。
そこには、創業以来大切にしてきた考え方と、吉田社長が描く未来への思いが込められています。

大和農園が目指しているのは、単に種を販売する会社ではありません。
作る人、食べる人、そして種苗に関わるすべての人に喜ばれる会社になること。
そして、長年会社を育ててくれた奈良や天理の地域に恩返しをすることです。

「奈良と共に成長するグループ企業になる」

大和農園として築いてきた信頼と実績を基に、自分たちだからこそできることで、
奈良を盛り上げていきたい。
吉田社長は力強くそう話されました。

受け継いだ歴史を大切にしながら、変えるべきものは勇気を持って変えていく。
吉田社長の挑戦は、大和農園の次の100年を育てる、新しい種まきなのだと思います。

お話を伺っていて、とても印象に残ったことがあります。

それは吉田社長が、「弊社は」「私は」という言葉ではなく、何度も「我々は」と話されていたことです。

目指していることも、考えていることも、自分一人のものではない。

ここで働く皆の思いなのだ。

その「我々は」という言葉には、そんな気持ちが込められているように感じました。

今の大和農園は、吉田社長一人の思いで動いている会社ではありません。

社長の思いとスタッフ一人ひとりの思いが重なり合い、

「巡る恵みを、百年先へ。」

という未来に向かって、皆で歩んでいる。

お話を伺いながら、そんな会社なのだと感じました。

吉田睦 社長
(株式会社大和ホールディングス・株式会社大和農園 代表取締役)